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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)9164号 判決

原告

株式会社オリエントファイナンス

右代表者代表取締役

阿部喜夫

右訴訟代理人弁護士

磯貝英男

森健市

高橋庸尚

村本道夫

被告

株式会社庄屋食品

右代表者代表取締役

服部昌江

被告

中津薫

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金二六二万五七〇〇円及びこれに対する昭和五九年五月二八日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告ら)

原告の請求をいずれも棄却する。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、割賦購入あっせんを目的とする株式会社である。

2  原告と被告株式会社庄屋食品(以下「被告会社」という。)とは、昭和五八年七月一九日、次のとおりの立替払契約を締結した。

(一) 原告は、被告会社が右同日訴外仲無線電気株式会社(以下「訴外会社」という。)から購入した冷蔵庫の代金二二〇万円を立替払する。

(二) 被告会社は、原告に対し、右立替金及び分割払手数料八五万九四〇八円の合計三〇五万九四〇八円を昭和五八年八月から同六三年七月まで毎月二七日限り五万〇九〇〇円あて(ただし、第一回は五万六三〇八円)分割して支払う。

(三) 被告が右割賦金の支払を一回でも遅滞したときには期限の利益を失う。

3  被告中津薫「以下「被告中津」という。)は、原告に対し、昭和五八年七月一九日、右立替払契約に基づき被告会社が原告に対して負担する債務を連帯保証する旨約した。

4  原告は、訴外会社に対し、同年八月二〇日、前記代金二二〇万円を支払った。

5  昭和五九年四月二七日が経過した。

よって、原告は、被告らに対し、本件立替払契約、連帯保証契約に基づき、右期限以後に被告らが支払うべき立替金及び分割手数料合計二六四万六八〇〇円のうち受領済みの二万一一〇〇円を控除した残額二六二万五七〇〇円及びこれに対する期限の利益を喪失した日より後である昭和五九年五月二八日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅滞損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告会社

被告会社が訴外会社から冷蔵庫を購入すべく原告の立替払契約書に記名捺印して申込みをしたことは認める。

2  被告中津

(一) 請求原因1は認める。

(二) 同2本文は認める。(一)(三)は知らない。(二)は否認する。

(三) 同3は認める。

(四) 同4は知らない。

三  抗弁(同時履行)

被告らは、被告会社が訴外会社から本件冷蔵庫の引渡しを受けるまで立替金及び分割手数料の支払を拒絶する。

四  抗弁に対する認否

同時履行の主張は争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因について

1  弁論の全趣旨によれば、請求原因1(原告の地位)の事実が認められる(原告と被告中津との間においては争いがない。)。

2  〈証拠〉によれば、請求原因2(立替払契約)の事実が認められる。

3  請求原因3(連帯保証契約)の事実は、原告と被告中津との間において争いがない。

4  〈証拠〉によれば、請求原因4(立替払)の事実が認められる。

5  請求原因5(弁済期の経過)の事実は公知の事実である。

二抗弁(同時履行)について

1  被告らは、販売店である訴外会社から本件冷蔵庫の引渡しがないことを理由に信販会社である原告の立替金及び分割手数料支払の請求を拒絶する旨主張するが、立替払契約において購入者が販売店との売買契約上の抗弁権をもって信販会社に対抗しうるかは一個の問題である。

この点につき、昭和五九年法律第四九号による改正後の割賦販売法三〇条の四は、割賦購入あっせんについて売買契約上の抗弁の対抗を認めた(もっとも、その購入が購入者のために商行為となる場合を除外する。)が、本件立替払契約は右改正法の施行日により前に締結されたものであるから、同条の適用がないことは明らかである。

2  そこで検討するに、立替払契約は、その成立において売買契約を前提とし、その目的を達成するための手段として機能し、また、信販会社は、販売店に対し、売買代金を立替払することにより手数料を受け、販売店と利益を享受しあう関係にあるなど信販会社と販売店との間に経済的な牽連関係があることは否定できず、かかる観点に立てば、信販会社は経済的に一体をなす販売店側の当事者と評価される結果、購入者にとっては売買代金を信販会社に分割払するのと実質的に異ならないとみることができないではない。しかしながら、販売店と購入者との間の売買契約と信販会社と購入者との間の立替払契約とは法形式上は別個の契約であり、また、実質的にも、信販会社としては販売店の売買契約上の履行が完全に行われるか否かを立替払実行時に的確に把握しうるとは限らず、そうかといってその確認を義務付けることは信販会社に酷である一方、購入者としては現金の一時払という負担を免れつつ相当高額な商品を容易に入手して利用できるという利益を受けることを考慮するならば、信販会社において売買契約の履行がなされないことを知り又は知りうべきでありながら立替払したなどの特段の事情がない限り、売買契約上の抗弁を購入者が信販会社に対して主張することはできないと解するのが相当である。

本件においては、原告が訴外会社の被告会社に対する売買契約の不履行を知り又は知りうべき立場にあったことを認めるに足りる証拠はなく、その他右不履行の結果を原告に帰せしめるのを相当とするような事実は窺われない(かえって、〈証拠〉によれば、被告会社は、実際には本件冷蔵庫を購入する必要がなかったにもかかわらず、金融を得るために訴外会社と意を通じて本件立替払契約を利用したことが認められる。)。

3 したがって、被告らは、本件冷蔵庫の引渡しがないことを理由に立替金及び分割手数料の支払を拒絶することはできないというべきであり、抗弁は失当である。

三よって、原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官太田幸夫 裁判官木下徹信 裁判官飯塚宏)

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